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ASHINO KOICHI +plus

彩書家・蘆野公一の日々のつれづれ

様式としての魔物 

2023/02/02
Thu. 03:56




高校生のころは、今のように個人で持てるような電話などなかった。
青春を謳歌している10代は、夜になると、ひっそりと彼女・彼氏の元へイエデンから電話をかけるのが様式だった。
そして、その様式の中に組み込まれるようにして魔物は存在した。



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私もそんな様式に則っていた。
部屋に電話はあれど、回線は一つしかない。
電話が長くなったりすると、魔物はわざとかどうか知らんが、階段をダガ!ダガ!ダガ!ダガ!と音を立てて上ってくる。
やばい!来た!と受話器を持つ手に汗が滲む。
部屋の鍵がかかっているか確認する。大丈夫だ。
階段を上りきった。
もう、すぐそこにいる。
ドガ!ドガ!とノックが鳴る。
魔物が発する熱量がすごいのか、閉まっているドアが揺らめいて見える。
一瞬金縛りにかかるも正義の呪文を飛ばす。
「ベンキョーデワカンナイトコキイテンノスグオワルカラ!」
十字も切ったかもしれない。
すると魔物は何かよくわからない言葉を言って去っていく。魔界の言葉なのでよくわからないのだ。
退散させることはできたが、魔物が一度来るとテンションは否応なく下がる。
じゃあまた、と受話器を置く。
そしてテンションだだ下がりのまま、机に向かったりしたのだった。



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魔物が二度三度と来襲することもあった。
もうそれくらいになると正義の呪文も効かない。
血を抜かれ、立てなくなった10代は、机に向かうこともできず、横になるしかないのだった。



魔物を逃れ、公衆電話を使用する者もいました。
でも、受ける側には魔物がいるわけで、いずれにせよ大変な時代でした。



 

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電話機回想譚 

2023/01/28
Sat. 06:01




掃除機のデザインについて書いていて、思い出したことがあります。

高校時代、自分の部屋にあった、アイボリー色のプッシュボタン電話機がどうにも気に入らなくて、"Iskra" というメーカーの電話機を手に入れました。
いや、正確に書くと、プッシュボタンが気に入らなかったのではありませんね。"Iskra" に一目惚れし、どうしても欲しくなってしまったのでした。
あの頃は、ネットで探してポチっと、などということはできなくて、手に入れるまでが大変でした。
指差しジーコジーコダイヤルでしたが、とにかくデザインが良かった。
部屋に来た時は、小さい座布団の上に置いて、ずっと眺めてました。
目がキラキラうっとりしていたと思います。



R0024747.jpg



一人暮らしをするようになって、留守番機能やFAXの付いた電話が必要となり、何度かの引越しの波に揉まれたりして、いつの間にか無くなってしまいました。
今でもあの "Iskra" は、記憶に鮮明に残っています。
高校生にはわりと高価で、身の程を弁えない買い物を親に内緒でしてしまったのでした。
すぐに鬼の追及がなされましたけれども。

スマホに頼るようになった今こそ、イエデンは "Iskra" でいいのではないだろうか、いっそのこと "Iskra" を手に入れてしまおうか、と一瞬思いましたが、ごく一部の年配者のためにFAXは手放せないのでした。
 

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挿話・獨逸譚 

2023/01/14
Sat. 22:32




ひょんなことから、作品をドイツで展示したときに、購入してくれた方のことを思い出した。
名前も、住んでいる場所も知らない。
元気だろうか、今どうしているのだろう、ちゃんと手許に置いておいてくれているのだろうか、とすこしばかり気になった。(いや、しかし「置いておいてくれている」ってすごい日本語ですね)



germany.jpeg



最近、よくメッセージをくれるドイツの作家友人がいる。
彼に探してもらおうかと思った。
SNSが発達しているこの時代、探したい人に関係しそうな数々のコミュニティに「尋ね人」として画像を投下すれば、おそらくすぐに見つかるだろう。
しかし、見つかったからといって、私はいったいどうするのだろう。
きわめて人見知りで、おそろしく関わりめんどくさがりで、いやになるほど口下手の私が、気の利いたことができるはずもない。
やめておこう。
このまま良い思い出のままにしておこう、そう思った。


 

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夜の陽だまり 

2021/04/08
Thu. 03:00



その猫の名前はヌイと言った。
フランス語の<nuit:夜>からとったもので、夏の夜のような色をした猫だった。

記憶の中のヌイは畳の上にできた陽だまりの中にいつもいる。
菱田春草の描く黒猫のように毛先をぼんやりと金色に光らせて、香箱を組んで、頭を陽の差し込む窓の方に向けてじっとしている。
僕は記憶の中のヌイに声をかける。
ヌイはめんどくさそうにゆっくりと頭を上げ、目を閉じたままこちらを向き、薄く目を開けて僕を確認すると、にゃあと言い、また目を閉じ、そしてゆっくりと元のかたちに戻る。
もう一度声をかける。
でも、もうヌイはこちらを見ることはない。
動くこともない。
ただじっとしている。
陽だまりの中で。



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慎ましやかなハロウィン 

2020/10/31
Sat. 05:21



どうやら今日はハロウィンのようです。
今年は46年ぶりの満月らしいです。

十数年前までは友人宅で催されるパーティーらしきものに参加していましたが、少しずつ間遠くなって、いまはディスプレイ等に飾られるJack-o'-Lanternを眺めて、当時の宴に思いを馳せるだけの年寄りとなってしまいました。
ホスト(他数名)による料理とBYOBでただ楽しむだけのものではありましたが、参加者それぞれが、ちょっと派手なメイクをしたり、黒猫耳をつけたり、ドラキュラの牙や黒衣装で装ったり、カボチャやフォックスフェイスで作った手製のJack-o'-Lanternを持ってきたりして、慎ましやかな雰囲気作りはあったように思います。

(「慎ましやか」と書いてしまいましたが、現在のような派手派手仮装ではないということであって、たぶんみんな気合入っていたと思います。)



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写真は合成のように見えますが、加工してません。今日撮った満月一日前のものです。洋館と月と空がハロウィンっぽいでしょ。月見えませんけど。



 

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2023-03