fc2ブログ

ASHINO KOICHI +plus

彩書家・蘆野公一の日々のつれづれ

桜並木の川のほとりで 

2015/04/06
Mon. 02:39



出たばかりです。と紹介された物件は、桜並木の小さな川沿いにあって、ドアには、先月まで入っていたベーカリーショップの、永らくのご愛顧を感謝する手書きの紙が貼られていた。
家賃が高すぎるなあと思っていたが、周囲の環境は良く、新たな物事を始めるには申し分のない物件だった。
桜の花びらが舞う小径を子供達が自転車で連なって走り、仲の良さそうな老夫婦が赤のバンダナを首に巻いた黒のラブラドルを散歩させて行く。その風景は、昔見たドラマの一場面を思い起こさせ、なんだか自分も登場人物の一人になったような気にさせてくれたのだった。その流れでいくならば、僕は何の迷いも障害もなく簡単にそこをぽんと借りて、そこから様々な渦に巻き込まれながら成長していくという、典型的なビルドゥングス・ロマンに身を措くはずだろうが、現実はもちろんそうではない。
現実は、細胞ひとつひとつに刻まれた重く冷酷な呪いが、野心の描く展望をぎゅうぎゅうと小さな箱に押し込めようとしていて、スタートを切ることすら極めて難しいのだった。




IMGP1432.jpg



呪いは断ち切らなければならない。そして私が手に入れた獲得形質を新たな呪いとするのだ。と心の声がした。
まあ、生物学的には否定されているのだけれども。


 

[edit]

CM: 0
TB: 0

page top

この記事に対するコメント

page top

コメントの投稿

Secret

page top

トラックバック

page top

2023-09