ASHINO KOICHI +plus
彩書家・蘆野公一の日々のつれづれ
人類最後の男
2017/08/12
Sat. 03:03
20代後半の頃、当時、まだ飛行機に一度も乗ったことがないという同じ歳の男がいた。
なぜあれが空に浮くのかが理解できない。と彼は言った。
浮くのが理解できないことと、乗ったことがないということに、どういう関連性があるのかはわからなかったが、彼なりの考えがあるらしかった。

彼は変わった男で、様々な面白いエピソードがある。
たとえば、彼は野菜として分類される食物をいっさい口にしようとしなかった。
インスタントラーメンのかやくに入っている乾燥野菜もきちんと取り除いてからお湯を入れるといった徹底ぶりだった。
食べられないわけではない、食べないんだ。と彼は言った。
周囲の者はみな彼の偏食を知っていて、食事の席では彼が何も言わずとも、彼の前に出された料理から野菜類が自動的にまたたく間に消失した。前菜のサラダが出て来れば皿ごと無くなったし、青椒肉絲を頼めば一瞬にして肉絲になったりした。
彼にはもうずっと会ってないし、消息も知らないが、おそらくいまでも飛行機には乗らず、野菜類も食べずに元気に生きているはずだ。
人類で最後まで生き残る男だ、と多くの者が言っていたのを思い出す。
[edit]
« おじさんが蚊を散らす | 赤い満月 »
この記事に対するコメント
トラックバック
| h o m e |