ASHINO KOICHI +plus
彩書家・蘆野公一の日々のつれづれ
夜の陽だまり
2021/04/08
Thu. 03:00
その猫の名前はヌイと言った。
フランス語の<nuit:夜>からとったもので、夏の夜のような色をした猫だった。
記憶の中のヌイは畳の上にできた陽だまりの中にいつもいる。
菱田春草の描く黒猫のように毛先をぼんやりと金色に光らせて、香箱を組んで、頭を陽の差し込む窓の方に向けてじっとしている。
僕は記憶の中のヌイに声をかける。
ヌイはめんどくさそうにゆっくりと頭を上げ、目を閉じたままこちらを向き、薄く目を開けて僕を確認すると、にゃあと言い、また目を閉じ、そしてゆっくりと元のかたちに戻る。
もう一度声をかける。
でも、もうヌイはこちらを見ることはない。
動くこともない。
ただじっとしている。
陽だまりの中で。

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